システムエンジニア(以下、SE)と聞くと、プログラマーやプログラミングをする人のことを思い浮かべる方は多いと思います。
また、「プログラミング経験がないとSEになれないのではないだろうか」「IT未経験でもSEになれるのだろうか」とお考えの方も多いのではないでしょうか?
実は、SEとプログラマーはまったく業務内容が異なります。
さらに、SEにも業種や業務、領域などでさまざまなタイプがあり、まったくプログラミングをしないというSEまで存在します。
私は、ネットワークやサーバー、セキュリティなどのITインフラを専門領域とした「ITインフラエンジニア」として活動していますが、ITインフラエンジニアも「プログラミングをしないSE」の1つです。
そこで、「IT未経験・プログラミング未経験だけれどもSEという仕事に就きたい」とお考えの方のために、私が従事しているITインフラエンジニアという仕事を紹介したいと思います。
実は、私もIT未経験でこの業界に入りました。
プログラミング経験もない状態でキャリアをスタートしましたが、かれこれ20年以上活動しています。
これは私の実体験でもありますが、SEとしてのキャリアをスタートしてから勉強をはじめても、十分にSEとして活動することが出来ます。
ただ、その勉強の仕方、何を目指すのか(キャリアプラン)の考え方にはコツがありますので、この後、詳しく紹介したいと思います。
ITインフラエンジニアの仕事とは
ホームページを公開するWebサーバーを構築する場合を例に、ITインフラエンジニアの業務内容をご説明します。
Webサーバーを構築するためには、「Webコンテンツ(ページ、画像、プログラムなど)」及び、これらを動かすための「ネットワーク」「サーバー」「セキュリティ」の環境が必要です。
この「ネットワーク」「サーバー」「セキュリティ」にあたる部分をITインフラといい、ITインフラエンジニアの担当領域となります。
実際の業務では、もう少し幅広い知識と専門的な知識(深い知識)の両方が求められるのですが、詳細は、『働き方改革を支える“旬なお仕事”、「ITインフラエンジニア」の魅力』でご紹介していますので、あわせて読んでみてください。
IT未経験から学習する方法
冒頭で、IT未経験でもキャリアをスタートした後、正しい勉強をすればSEとして充分活動できるとお話をしました。
勉強の仕方、順序については若干コツがありますので、どのようにして勉強するとよいかについて、紹介します。
業務をしながら学習する(OJT)
業務を通じて、上位者から指導を受けながら知識を習得し、経験値を高める方法として、以前より一般的に運用されているトレーニング方法です。
ITスキルの習得は、体系立てて、網羅的に理解することが重要なのです。
ただし、「業務を通じて」となると、習得する内容に偏りが出ることや、教える側のスキルが必要であることも考慮する必要があります。
OJTは知識を習得した後の“実践の場”として活用する方が効果的であると考えます。
資格取得、外部トレーニングなどで学習する(OffJT)
ITスキルを短期的で習得するためには、IT資格を取得することと、外部トレーニングで学習することが非常に有益です。
それぞれについて詳しくご紹介いたします。
資格取得
市販されている資格対策本は、まったくの初心者でも理解しやすく、学習しやすいように構成されています。
用語の説明から始まり、図を使って丁寧に解説されているので、1つの本を最初から最後まで順を追って読み込めば、確実にスキルを上げることができます。
ITの資格は、大きく分けると、「ベンダー資格」と「国家資格」の2種類に区別されます。
私の感覚ですが、実務ですぐに活かせるスキルは「ベンダー資格」、SEとしての経験を積み、スペシャリストやマネジメントに進む際に活かせるのは「国家資格」と考えています。
外部トレーニングやITスクールの活用
ITスキル獲得において、外部トレーニングやITスクールを使う方法は非常に有効な手段です。
ITスキル獲得は専門書や資格対策本を使って学習することが多いと思いますが、書籍だけでは理解が難しいことや、「この場合はどうなるのだろうか」という疑問が出てくることもあります。
そのような場合、外部トレーニングやITスクールでは、講師に自分のわからないことを質問できるので、不明点を速やかに解消することが可能です。
また、外部トレーニングやITスクールを選ぶ際は、実機操作までサービス内容に含まれているスクールをお勧めします。
理由は、書籍で習得した内容を、実機の操作を通じて確認し、理解を深められるからです。
実機を触るに勝るスキル獲得方法はない
ITスキル獲得について、資格取得、外部トレーニングやITスクールの活用による方法が有効であることを紹介しました。
費用面の事情から、極力書籍でITスキル獲得をしようと考えるのは仕方がないと思います。
ただ、書籍で学習した人と実機を触って学習した人との差は歴然としているのも事実です。
したがって、可能な限り、実機を触りながら学習することをお勧めします。
しかし、ネットワーク機器やサーバーなどのハードウェア・ソフトウェアは、購入費用が高く、個人で調達するのが困難なことがあるでしょう。
だからこそ、実機に触れることができるITスクールを活用するのがおすすめなのです。
ITインフラエンジニアに人気の資格
以下は、ITインフラエンジニアに人気のある国家資格およびベンダー資格を紹介します。
クラウドサービス | ベンダー資格 |
・Amazon Web Service認定資格 |
---|---|---|
ネットワーク | 国家資格 | ・ネットワークスペシャリスト |
ベンダー資格 | ・シスコ技術者認定資格 | |
サーバー | ベンダー資格 |
・マイクロソフト認定資格 |
データベース | 国家資格 | ・データベーススペシャリスト |
ベンダー資格 |
・オラクルマスター |
|
マネジメント | 国家資格 | ・プロジェクトマネージャー |
ベンダー資格 | ・MP (Project Management Professional) |
ITインフラエンジニアのキャリアの作り方
10年ほど前まで、SEのキャリアといえば、「SE→プロジェクトリーダー→プロジェクトマネージャー→管理職」へと進むのが一般的でした。
最近では、専門職という選択肢ができたため、専門職を目指すキャリアが認められる時代に変わってきたと思います。
専門職としてのITインフラエンジニアのキャリアは、大きく分けて、「スペシャリスト」「マネージャー」「コンサルタント」の3つがあります。
それぞれのキャリアの特徴、求められるスキルについて紹介します。
スペシャリスト
ITインフラエンジニアとしての知識とスキルをさらに高め、その名の通り、専門家として第一線で活躍するキャリアです。
スペシャリストは、「上級システムエンジニア」「ITアーキテクト」などと呼ばれることもあり、大規模プロジェクトや高難易度プロジェクトに参画するなど、その領域の権威として活動します。
高い専門性を維持するためには、常に知識を深めることが必要です。
したがって、日頃より幅広く情報収集活動をしたり、保有しているベンダー資格の更新をしたりなど、常に最新の情報に触れ、身につけるための努力が必要です。
マネージャー
プロジェクトマネージャーは、大規模なプロジェクトの責任者として活動します。
大規模プロジェクトは、対応する範囲が広く、複数の関係者が関わります。
したがって、プロジェクトマネージャーがプロジェクトを成功に導くためには、プロジェクトの目的・責任範囲・役割を明確にし、関係者とのコミュニケーションを図りながら、スケジュール・コスト・リソース・品質・リスクなどの管理を行わなければいけません。
先述のスペシャリストの仕事と比較すると、管理的な仕事の割合が高いという特徴があります。
ただし、IT技術者としての知識と経験なくして、プロジェクトの計画作成や指揮・実行はできませんし、そもそも大規模プロジェクトを任されるためには、数多くの小中規模プロジェクトを経験する必要があります。
コンサルタント
「スペシャリスト」や「マネージャー」は、どちらもプロジェクトの現場で活躍する仕事です。
これに対して、コンサルタントは、自身の知識と経験を活かし、アドバイザーとして活動する仕事です。
具体的には、中長期IT投資計画・ロードマップの作成、投資対効果の測定、システムおよびシステム運用の最適化・効率化手法の検討、組織・体制づくり、人材育成などが業務となります。
したがって、必然的に経営者との面談・接点が増えます。
また、コンサルタントは、前例のないことや答えがないことの解決策を示す仕事です。
スペシャリストと同等の知識と経験に加えて、幅広い業務知識、業界知識がなければ務まりません。
基本的に、コンサルタントの業務は、プロジェクトが始まる前の活動がメインになることが多いのですが、時に、そのままプロジェクト責任者やプロジェクトマネージャーにスライドすることもあります。
プロジェクトの目的や目指すゴールを理解している点が重視されるのですが、すでに顧客との関係性が構築されていることもその理由として挙げられます。
顧客側の立場からしても、プロジェクト開始前から懇意にしていたコンサルタントに、指導後も関わって欲しいと願うのは当然のことでしょう。
ITインフラエンジニアのキャリア形成例
専門職としてのITインフラエンジニアのキャリアには、「スペシャリスト」「マネージャー」「コンサルタント」の3つがあると紹介しました。
いずれのキャリアに進むにせよ、高い技術力を有していることが絶対条件です。
以下では、ITインフラエンジニアのキャリア形成例をご紹介します。
なお、下表の「期間」はあまり重要ではなく、目安としてとらえていただければと思います。
大事なのは、「実施内容、達成レベル」です。
期間 | 実施内容、達成レベル | 取得するIT資格(例) |
---|---|---|
1~2年目 | ・ヘルプデスク、運用・監視要員、システムテスト要員として活動。 ・運用作業、システムテストを経験し、ITインフラの操作手順やITインフラ構成を理解する。 | ・ITIL Foundation ・MCP (Microsoft) ・CCNA (Cisco) ・Oracle Bronze |
3~5年目 | ・構築、保守要員として活動。 ・現場でシステム構築や障害対応を実施し、ITスキルを習得すると同時に小規模チームのリーダーとして活動する。 ・システム設計に参画し、議事録の作成やシステム検証、設計書作成を経験し、システムデザインとコアスキルを習得する。 | ・MCP (Microsoft) ・CCNP以上 (Cisco) ・Oracle Silver以上 ・VCP (VMware) ・SAA/SAP (Amazon Web Service) |
6~10年目 | ・システム設計者として活動。 ・設計書や作業計画・手順書などの作成を経験し、中規模案件のプロジェクトリーダーとして活動する。 ・システム設計者としての活動と並行して、最新のITスキルとマネジメントスキルを習得する。 | ・ITアーキテクト (IPA) ・プロジェクトマネージャー (IPA) ・ネットワークスペシャリスト (IPA) |
11年目以降 | ・「スペシャリスト」「マネージャー」「コンサルタント」の道に進む | ・必要に応じて、資格を更新 |
キャリア開始~5年目
一般的には「若手」と呼ばれ、数多くの経験をすることを求められる時期です。
業務内容は、まずITインフラの運用、作業、障害対応など、手を動かす経験をするのが良いと思います。
ITインフラの操作や構成、運用を理解することが、後々の設計業務に活かされます。
併せて、資格取得、外部トレーニングやITスクールを効果的に使い、ITスキルを習得するのが良いでしょう。
スキル習得が進んだ頃、数名程度の小規模のチームを率いる機会があると思います。
ITスキルと経験の習得と並行して、チームマネジメントを実践することを忘れないでください。
これらの経験の積み重ねが、将来、マネジメント業務をする際に役に立ちます。
6年目~10年目
一般的には「中堅社員」と呼ばれる、プロジェクトの最前線で活躍する時期です。
プロジェクトリーダーとして、プロジェクトマネージャーの下、システム設計や実装、テストにおける中心的な役割を担います。
技術的な役割と並行して、プロジェクトマネジメントを経験し、プロジェクトの成功に貢献することも求められます。
資格の更新や、新しい資格へのチャレンジ、国家資格やマネジメント資格を目指すことにより、自分の視野を広げることをおすすめします。
11年目以降
これまでの経験を踏まえ、「スペシャリスト」「マネージャー」「コンサルタント」のうち、どの方向に進むのかを選択する時期になります。
ここから先は、自分で選んだ方向に対して、より高いレベルでの仕事ができるように日々精進することになります。
最後に
ITインフラエンジニアの仕事は、ITシステムを支える重要な職種です。
ITシステムの重要度が高いほど責任は重大ですが、それだけにやりがいのある仕事だと思います。
現在、私はクラウドサービスを活用した次世代ITプラットフォームのコンセプト作り(ITインフラ運用の自動化、AI/機械学習など)、在宅勤務環境の整備プロジェクトに関わっています。
企業における業務改革や働き方改革をITインフラの立場から支える仕事は、まさに旬な仕事ですし、非常にやりがいを感じられます。
この記事を通じて、一人でも多くの方が、ITインフラエンジニアの仕事に興味を持っていただけると幸いです。